●ストーリー●
 葉山京夜は孤独な子供。誰もいない家、なじめない友だち。
 遊びに行くのは寺の奥にある廃屋。
 そこで抱きしめてくれたのは、黒い髪に黒い服のふしぎな魔物『カラス』だった。
 やがて別れが訪れるが、彼は銀色の指輪をくれた。
 そして「お前が俺を忘れなければ、必ず迎えに行ってやる」と約束してくれた――。
 いつしか大人になった京夜のもとにある男が現れるが……!?
 “妖風”BLファンタジー!【04年10月1日発売】

●登場人物●
 ・葉山京夜(受):大学生。母の死後、父と上京。父の再婚後は伯母の家で暮らしていた。今は仕送り頼みの一人暮らし。
 ・神居遠司(攻):葉山の住むアパートの隣人。『カラス』を彷彿とさせる印象の男。葉山とは夕飯を一緒に食べる仲。
 ・『カラス』:京夜が子供の頃、廃屋で出会った黒づくめの男。別れの時に京夜はある約束をする。その徴に銀色の指輪を京夜に渡す。
 ・『トンビ』:『カラス』と一緒にいた男。物言いが少し意地悪。京夜と出会ってすぐに姿を消す。
 ・山陰:神居の友人。神居とは対照的で押しの強そうな性格の持ち主。

 雪瑠オキニイリの火崎 勇先生のコバルト文庫新作。
 火崎先生の作品は独特の雰囲気の作風が多くて、そこがが好きだったりするんですが、今作は「“妖風”BLファンタジー」ってなだけあってさらに不思議な雰囲気のストーリーでした。
 始めは神居に対して『カラス』を意識していた京夜が、いつからか神居自身に惹かれていきます。
 そして神居も京夜の気持ちに応えます。
 どんなに寂しくてもその感情を表に出さなかった京夜が、神居に「一人になりたくない」と本音を吐露するところがグッときます。
 そのときに京夜が「約束してくれますか…?もし俺があなたをいらないと言ったら、別れるって」と告げるんですが、なぜ付き合う前からそんな事を云うんだろう?と思ったら、京夜なりのブレーキだったんですね。
 神居が自分の『特別』になっていくのが怖い…だからいつか来る別れのときに受ける傷が深くならないように、というか。
 その気持ちもわかるんですけど、そんなのって寂しいですよね、実際。
 結局、京夜はその後、自分の周りに居る人たちを故意に遠ざけていくようになります。
 神居とも自ら別れを望むかのような嘘の台詞をぶつけて嫌われるように仕向けます。神居のことを好きなのに。
 なぜそうまでして京夜は決して本心ではない『ひとり』になりたがるのか…?
 京夜が必要としているのは『カラス』なのか?それとも神居なのか?
 京夜の病気をきっかけに、それらのことに答えが出ます。
 作品の雰囲気は終始暗めですが、最後はハッピーエンドだったんでホッとしました。
 これでバッドエンドだったら、読み終わった後に気分が沈んぢゃってなかなか浮上できなそうだから(苦笑)

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